Weekly Column

Hero's Eye

慢心

Hero
2004.05.14
 4月25日PRIDE GP開幕戦。ヘビー級3強の一角とされていたミルコ・クロコップが敗れ去った。この敗戦、人それぞれ様々な見解があるだろう。私自身、この試合が終わってもなお試合前と変わらず思い続けていることがある。『ランデルマンはミルコが負ける相手ではない』というものだ。PRIDEというリングはなにが起こるかわからない。一発の偶発的なパンチやアクシデントで決着してしまう試合を、これまでに何度も見てきた。が、そういったものを加味しても、ランデルマンはミルコが負ける相手ではなかったと思うのだ。では、なぜこの試合は私の見解と異なる結果になったのであろうか。
 PRIDEに本格参戦してからのミルコの試合は、彼独特の常に張り裂けそうな緊張感がリングを支配していた。それは自分がこのリングで、並々ならぬ強豪に対抗できうる唯一の武器である『打撃』を繰り出すために、スタンディングポジションをキープする必要があったからだ。自分はテイクダウンを取られてしまっては勝負にならない。それはミルコ自身が一番知っていたことではないだろうか。この類まれな緊張感が研ぎすまされた集中力を生み出し、PRIDEという過酷な舞台で結果を残すことができたのである。唯一敗戦を喫したノゲイラ戦でも、スタンディングではミルコが圧倒していたのだった。ただ、その敗戦はスタンディングのみの戦いに限界を感じさせるものとなり、そしてミルコはグラウンドの重要性を認識することとなった 。それがPRIDE27でのロン・ウォーターマン戦に現れていた。この試合で簡単にテイクダウンを奪われたミルコであったが、それを彼は『予定通り』と言ってのけたのだ。あたかも、テイクダウンされたあとの対応をテストしたと言わんばかりに。結果はご存知のとおり、グラウンドを耐え忍んだミルコがスタンディングに戻った直後に勝負をつけたのである。彼の言う『テスト』には合格したということだろう。しかし、この合格に落とし穴があったのだ。自分の戦いに対する引き出しが増えたことによって余裕が生まれ、それが今回の『慢心』へとつながってしまったのではないだろうか。
 ランデルマン戦の試合開始直後、私は非常に強い違和感をミルコに感じてしまったのだ。いつものピリピリとした緊張感がまったく感じられなかったのである。対するランデルマンからは非常に強い警戒心と気迫が感じられた。 この一戦でミルコは一発も打撃を出せずに撃沈した。この試合に懸けていたランデルマンと、すでに8月の決勝を見据えていたミルコ。両者の試合に対する意識の違いが、この結果を生んだのであろう。
一瞬で築き上げてきたものが崩れ去るPRIDEのリング。メンタルの重要性を再認識させられた一戦であった。
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