<第1試合>
●ローマン・ゼンツォフ×マイク・ルソー○
戦前、オープニングとしてはパンチに欠けるカードと思えたが、初見だったルソーのスキルが高く、巨漢に似合わず器用であり流れるようなフィニッシュで感心させられる。
<第2試合>
○川尻達也×ルイス・アゼレード●
川尻の見事なビルドアップされた肉体に期待が膨らむもフィニッシュを焦って強引になり過ぎ、明らかな空回り。噛み合った様な、噛み合わなかった様な、キレの無い勿体無い微妙な試合となる。川尻にとって長すぎた空白が裏目に出たか?彼の実力はこんなものでは無い。
<第3試合>
○瀧本誠×ムリーロ・ブスタマンチ●
ブス先生のネチッコイ攻めに1Rは防戦一方の瀧本、2Rに起死回生の右ストレートから左フックをヒット!ブス先生の腰が砕けるも、タッキーが仕留め切れず判定にダウン分だけ有利な瀧本が勝利。
『総合格闘技を舐めてました』発言から丸3年、彼の格闘技人生は結果とカードに恵まれず暗中模索の日々だった。それでも挑み続け、ブスタマンチを敗るほどの地力を持つ”白き天才”の「戦極」での活躍に期待。
<第4試合>
○石田光洋×ギルバート・メレンデス●
この階級で台頭と言えば、カルバンと青木、そして、メレンデス。次いで川尻、その後ろに石田だと思っていた。しかし、空白の時間に程よい静養とスキルアップをした石田は、メレンデスの多彩な攻めを尽く潰す”巧み”ぶり。マットに叩きつけられれば、即座にやり返す心意気。メレンデスを後、一歩の所まで追い込んで時間切れ。だけど、いい試合だった。総合格闘技とは選手も技術も進化している事を象徴する試合。
<第5試合>
○三崎和雄×秋山成勲●
問題のクリームが盛り込まれた過激映像で”ヒール”秋山を煽る。ブーイング飛交う場内に出てきた秋山は表情ひとつ変えず。しかし、秋山の座礼でさえ、場内を逆撫でする演出のひとつに見えてしまう空気が漂う。一方の三崎和雄は、己の奥底から湧き出るもの、押し寄せるものを必死に抑えるかの様に、飛び跳ねながら入場する。
運命のゴング、隣席の知人の彼女が「これは?K-1?」と錯覚を起こしてしまう程、スタンドオンリーな展開に。序盤に秋山の見事なワン・ツーがヒットし三崎は意識を刈り取られフラッシュダウン、秋山は続けてパウンドで追撃するも、三崎が無意識?に防御姿勢を取り、耐え凌いで再びスタンド戦へ。終盤、ジリジリと三崎が地味な揺さ振りをかけ始める。スイッチング、フェイント、そして、虚をつくボディーブローが決まる。続け様に一手前と同モーションの左フックを今度は顎へヒットさせる。堪らず尻餅をついた秋山はこの日、初めて表情が変化し、慌てて立ち上がろうとした次の瞬間、三崎の蹴り上げた足の甲が秋山の顔面にメリ込み勝負アリ!!最後の光景は”バキ”の板垣恵介氏の描写そのもので圧巻。
三崎和雄の大逆転で決した後、リングの上も外も一気に臨界点へと達し、”埼玉メトロダウン”大爆発。雄叫びを上げ、奇声を発し、見ず知らずの者同士が抱擁し合ったり、ハイタッチしたり、異様な熱気に包まれる。己の勝利に舞い上がった三崎は、朦朧とする秋山を呼び寄せ肩に手を置いて”あの件”を叱責すると同時に、魂が伝わったと激励する。でも、最後の座礼に見えない土下座は必要ない。
『4点ポジションからのサッカーボールキックは反則では?』との声があるが、あれは”倒れ際の追い討ち”ではなく、”起き上がり際の攻撃”だと見えた。帰宅後、VTRを繰り返し見てみたが、試合中の流れを考慮すればギリギリ”セーフ”の範疇だった。もし、ジャッジに不服があったのなら、秋山サイドはあの時、その場で抗議するべきだった。リング内は多くの者が決戦の余韻に浸っていて、時間も充分にあった。事実、一番近くのコーナーで立ち会っていた彼らセコンド陣も、即座に合否を”断定”できない程、微妙なアクションだった。
後になってから抗議するのもいいが、秋山本人は敵地ながら最初から最後まで威風堂々と己を貫き闘い抜いた。そんな、勇姿を目の当たりにした観客からは、秋山の退場時に惜しみない拍手と歓声が送られた。秋山は、ただ無残に散った訳ではない。格闘家として生きるという”魂”を怒号の飛び交う中、言い訳せず一人、刻んだのだ。その誉れ高き行動に、後付けで外野がモノを言っては濁すだけ。
会場にいた全員が余韻に浸り、興奮したまま口々に感想を述べながら休憩タイムへ突入。その最中にメインの皇帝ヒョードルの試合が地上波の関係上、繰り上がりとアナウンス。「我々に地上波が帰ってきました」って…確かにそうだけど、現実は、ただの他力介入。タバコ、トイレ、売店の全てを諦めて、先ほどの秋山×三崎の激戦をレポート作成し、依頼されていた3名へのメール送信作業に追われる。そんな僕を見兼ねた友人のセクシーな彼女がスナック菓子と飲み物を差し入れてくれる。2007年最後の食事は”とんがりコーン”と”森永マミー”と”ボイン”。
<第6試合>
○エメリヤーエンコ・ヒョードル×チェ・ホンマン●
「葬送の式典」、この言葉にグッと来た。なんという名言か!!映像を手がける佐藤Dを含めた大会開催に拘った旧DSEスタッフの心意気を表現するに最も相応しい。これはファンに対する感謝の意を込めた”葬送”なのだ。しかし、思わぬ試合順変更で最終上映予定の煽りVが一部、未完のまま流れる。制作者の心境を考えると気の毒でならない。最終・大トリ予定の映像が、こんな形で…さぞや、不本意だろう。
試合の展開は、大きい人が体格差と体重差を生かして覆いかぶさる。器用な下の人がサンボの基本で足掛けて締め上げる。確かにホンマンが善戦した風に見えるが…パウンドも何発かはヒットして皇帝の顔に傷を付けたものの、○億とも言われるギャラを払う価値が本当にあるのか?と問いたくなる試合。
<第7試合>
○桜井“マッハ”速人×長谷川秀彦●
長谷川とマッハの差が予想以上に開いていた。マッハの打撃を嫌い組み付いて転がる長谷川、何度も何度も繰り返される同じ攻防。マッハも強いが、あと一つが足りずに時間だけが過ぎ、会場はどんどん冷めていく。長い長い試合は判定でマッハ。
ここでモンテ・コックス氏が登場しM−1グローバルの日本大会?を期待していてくれと発言。
<第8試合>
○青木真也×チョン・ブギョン●
シドニー五輪の柔道シルバーメダリストであるブギョン。カルバンの代役として急遽組まれた”金魚”ならぬ”銀魚”かと思いきや、侮るなかれ、腕がらみとグラウンドでの卓越した技術、青木の腕を2回もキャッチする実力者。2R以降、青木がポイントを挽回すべく、ポジショニング優先に試合を展開する。この経験値の差が判定結果に出て青木に軍配。個人的には見応えある試合だったが、カウントダウンの時刻が迫っていて、周囲も関係者も
心では「早く、極めてくれぇ〜頼むぅ」と願っていたはず。
そして、ギリギリセーフのカウントダウン&フィナーレ、しかし、言い馴れない”やれんのか!”の掛け声はグダグダのバラバラ。万感の想いを胸に、さようなら〜PRIDE!・・・ぅん???!!!
垂れ幕が現れ「桜咲くころ、夢の続きを・・・」「今年も やれんのか!」
モニターには「花咲く頃に、会いましょう・・・」
でも、一番のサプライズは、リング上、立木文彦氏の挨拶。いい声ですわ。
こんな事、書いていいのか分からないが、毎回、リングサイドの某側に陣取る”影の軍団”の姿が見当たらず。脱却したのか、ご遠慮願ったのか、定かではない。その代わりに今回のVIP席には、招待者より自腹組と思しきファンが大勢詰め掛けていた事が、いい傾向だったと思う。様々な事、残念に思いますが、形態なんか気にせず”夢のステージ”をこれからも担っていって下さい。
闘議(とうぎ)葬送の式典 ~071231_やれんのか!~ |
u-spirit 2008.01.03 |
迷った挙句、田村のいない方”やれんのか!”へ向かう。真新しい首都高 外環状を経由して新都心IC。以前は、ほぼ2ヶ月間隔で通った埼玉スーパーアリーナ。便利になった分だけ、「今更…」と恨めしい気分にさえなる。そんな、久しぶりな光景に浸り、駐車場へ入庫する。先に開催されていたハッスル関係者と駐車場で遭遇し挨拶。その方の妹さんがバイトしている露店で”やれんのか!汁”を馳走になる。看板には「喰えんのか!」と書いてあり、食の安全が厳しく言及された年に、なんと横柄な売り文句だろう…と笑。場内はハッスル繋がりでアリーナ仕様。従来より小規模だが平等にどの席種からも観戦し易く、リングを包み込む配列で個人的には、こちらの方が好み。座席に着くと周囲には多くの知人、友人が来場していた。ハッスルとのWヘッダー組も多く、連れの女性が疲れて寝ている姿が目立つ。現地リポを頼まれた3人へのメールを作成していると目の前をM−1グローバル代表のモンテ・コックス氏が通り過ぎる。少なからず2008年の大連立のキーマンは、この巨漢のオッサン。開幕時間が近づくにつれ、待たされたファンのボルテージは上がりまくり。
そして、「それは一夜限りの…」至宝の佐藤&立木Vにて開幕。恒例の高田太鼓演舞で会場はアゲアゲになり、褌なし本部長の出て来いやぁ〜では無く、「かかって来いやぁ!」で出場選手紹介。秋山には恐ろしい程のブーイング。対照的に青木とヒョードルには、一時のサクやシウバを彷彿させる大歓声が上がる。その歓声に跳関十段は、感極まり顔を覆い隠し涙。やっぱり、この熱はHERO'Sの会場には無い。
そして、「それは一夜限りの…」至宝の佐藤&立木Vにて開幕。恒例の高田太鼓演舞で会場はアゲアゲになり、褌なし本部長の出て来いやぁ〜では無く、「かかって来いやぁ!」で出場選手紹介。秋山には恐ろしい程のブーイング。対照的に青木とヒョードルには、一時のサクやシウバを彷彿させる大歓声が上がる。その歓声に跳関十段は、感極まり顔を覆い隠し涙。やっぱり、この熱はHERO'Sの会場には無い。
闘議(とうぎ)ミドル級T決勝戦観戦記_後編 ~070917_HERO'S~ |
u-spirit 2007.10.04 |
前編より続き
休憩明け。この日、来場していたもう1人の生けるレジェンド”ヒクソン・グレイシー”がマイクを持ってリングイン。
「リングに立つと血が騒ぐ」
「次に皆様に会う時は選手として」
「近い将来、このリングに…。」
との”ウルトラリップサービス”も会場は思った程、盛り上がらず微妙な空気が漂う。10代〜20代のKIDや宇野を目当てに来場した娘さんたちは皆、一様にポッカーン。「オッサン、誰?何を言ってんの?」状態けれど、老いても、闘わずしても、未だ”最強”の称号を維持し続けるこの”オッサン”は、過去、日本格闘技界の”至宝”と呼ばれた多くの選手を尽く退けてきた。故に本当の”グレイシー越え”は、未だ完遂されていない。日本格闘技界がグレイシーを越える日、それは、ホイスやホイラーやハイアンではく、誰も疑う余地の無い”象徴”ヒクソンを倒した日が訪れたその時。この”夢”そのものが、MMAが急激に進化した現在では、ただの”幻想”かもしれない。世界を見渡しても、これ程、グレイシー一族に執着している国は今時、ニッポンだけだ。だから、今、ヒクソンを倒しても、その選手は”地上最強”の称号を得られない。精精、”ロートルなヒクソンを倒した男”と呼ばれるだけ。でも、UWFを知る者にとって、この”仇打ち”の価値は、今でも充分に意味がある。失ったものを、あの日を取り戻すには”ヒクソン”を倒すしか術はない。
休憩明け。この日、来場していたもう1人の生けるレジェンド”ヒクソン・グレイシー”がマイクを持ってリングイン。
「リングに立つと血が騒ぐ」
「次に皆様に会う時は選手として」
「近い将来、このリングに…。」
との”ウルトラリップサービス”も会場は思った程、盛り上がらず微妙な空気が漂う。10代〜20代のKIDや宇野を目当てに来場した娘さんたちは皆、一様にポッカーン。「オッサン、誰?何を言ってんの?」状態けれど、老いても、闘わずしても、未だ”最強”の称号を維持し続けるこの”オッサン”は、過去、日本格闘技界の”至宝”と呼ばれた多くの選手を尽く退けてきた。故に本当の”グレイシー越え”は、未だ完遂されていない。日本格闘技界がグレイシーを越える日、それは、ホイスやホイラーやハイアンではく、誰も疑う余地の無い”象徴”ヒクソンを倒した日が訪れたその時。この”夢”そのものが、MMAが急激に進化した現在では、ただの”幻想”かもしれない。世界を見渡しても、これ程、グレイシー一族に執着している国は今時、ニッポンだけだ。だから、今、ヒクソンを倒しても、その選手は”地上最強”の称号を得られない。精精、”ロートルなヒクソンを倒した男”と呼ばれるだけ。でも、UWFを知る者にとって、この”仇打ち”の価値は、今でも充分に意味がある。失ったものを、あの日を取り戻すには”ヒクソン”を倒すしか術はない。
第8試合 85kg契約
桜庭和志×柴田勝頼
桜庭和志×柴田勝頼
柴田はミノワマンをも凌ぐ”猛ダッシュ”勢い余って転倒して、吠えながらリングイン。このテンションはプロレスラーらしくて好きだ。だけど、格闘家として試合に挑むスタイルとしては、好ましくないだろう。そして、桜庭の入場時に流れた煽りVTRは、コミカルで真剣勝負に挑む際、神妙になりがちな空気を笑いで和ませ、試合前から柴田を煙に巻く。(残念ながら地上波ではカット)サクはこれまでのショートスパッツではなく、珍しくキックパンツスタイル。しかも指先は人差し指以外、全指、テーピングを施している。滑り止め対策か?古傷である両膝のガッチリテーピングと合わせ、やる前から痛々しくて既に負傷者の如し。試合前、ヒクソンから両者に花束贈呈、柴田は受け取ると即座に客席へと放り投げる。流石にヒクソンもこれには怪訝な顔。
試合は、元師匠の名付けた桜庭得意の高速片足タックル”サックル”が早々に決まり、難なく柴田をテイクダウン。ところが、柴田は下からサクの側頭部にパンチを躊躇無く、何発も入れる。サクはスイープとパスを繰り返し、自在に下の柴田を押さえ込む。ココでさっきのお返しとばかりにサクはキレ気味で平手とパンチで上から柴田を殴り続ける。スタミナをロスし、ダメージ蓄積で”返す”動きの止まった柴田の右腕を取り、足を跨いでフィニッシュへと移行するサク。柴田も両足でフックして、クラッチを切られまいと懸命に凌ぐ。それでもサクは支点をズラして、クラッチを切りガッチリ極めてタップアウトを奪う。試合後、サクは柴田をポンポンと叩き、健闘を称え合った。柴田は座礼にて意思を伝える。サクも座礼で応え、互いに言葉を交わす。さっきまで殴り合っていたけれど、別に憎み合っていた訳じゃない。互いを認め合い、礼に始まり、礼に終わる。”礼節”を重んじる”武道”に通じるこの競技と選手の姿をワーキャーと騒ぐだけでなく、しっかり観ていて欲しいと願う。果たしてサクとUWFの終着先は船木戦か?ヒクソン戦か?
試合は、元師匠の名付けた桜庭得意の高速片足タックル”サックル”が早々に決まり、難なく柴田をテイクダウン。ところが、柴田は下からサクの側頭部にパンチを躊躇無く、何発も入れる。サクはスイープとパスを繰り返し、自在に下の柴田を押さえ込む。ココでさっきのお返しとばかりにサクはキレ気味で平手とパンチで上から柴田を殴り続ける。スタミナをロスし、ダメージ蓄積で”返す”動きの止まった柴田の右腕を取り、足を跨いでフィニッシュへと移行するサク。柴田も両足でフックして、クラッチを切られまいと懸命に凌ぐ。それでもサクは支点をズラして、クラッチを切りガッチリ極めてタップアウトを奪う。試合後、サクは柴田をポンポンと叩き、健闘を称え合った。柴田は座礼にて意思を伝える。サクも座礼で応え、互いに言葉を交わす。さっきまで殴り合っていたけれど、別に憎み合っていた訳じゃない。互いを認め合い、礼に始まり、礼に終わる。”礼節”を重んじる”武道”に通じるこの競技と選手の姿をワーキャーと騒ぐだけでなく、しっかり観ていて欲しいと願う。果たしてサクとUWFの終着先は船木戦か?ヒクソン戦か?
第9試合 63kg契約
山本“KID”徳郁×ビビアーノ・フェルナンデス
山本“KID”徳郁×ビビアーノ・フェルナンデス
この試合、ビビアーノもKIDも異次元だった。でも、それを上回る異次元を繰り広げたのは”ヌル塗る事件”で一躍有名になった梅木レフリー。今回はあまりに滑稽である。ジャッジミスや勘違いってレベルを通り越していた。状況判断力が無さ過ぎる。試合中、KIDも呆れ顔で苦笑い。もう少しで名勝負が”迷勝負”になるところ。「今回、凌げた事で、寝技でも自信がついた」試合後のKIDのコメントが全てを物語っていた。僕は今回、KIDの一本負けを予想していた。ビビアーノの強さは、一般的に認識されていないが、柔術家としては、世界でも屈指のツイスター。グレイシーバッハらしからぬw積極的なスタイルでテクニックと対応力はトップクラス。本当の天才だ。そのビビアーノの猛攻を凌いだKIDの実力は、とんでもなく凄い。会場では、試合後のマイクパフォーマンスの際、判定勝利への不満からか?「言い訳するな!」と心無い野次が飛んだが、対戦相手が”ビビアーノ”だった事を考慮すれば、文句の付る余地など皆無、正に天晴れだ!そりゃ、自信も付くよ。
第10試合 ミドル級トーナメント決勝戦
J.Z.カルバン×アンドレ・ジダ
J.Z.カルバン×アンドレ・ジダ
相変わらず入場時間の長いブラジリアン2人放送時間の迫る編集スタッフの心中を思うと「早よ、上がれ!」と言いたくなる。開始早々、CB仕込みの回転の速いジダのスイングフックをJ.Z.が何発か喰らい、グラついた王者に、新星は猛ラッシュをかける。このまま新王者が決まるのか?と思えた次の瞬間、J.Z.は電光石火のタックルを決める。ジダも粘っていたが、跳ねのけ起き上がろうとして伸びた腕をJ.Z.が見事にキャッチして引き込み、回転しながらアームバーで決する。J.Z.はスタンド主体の選手だと思われがちだが、そもそもATT(BTT)の所属。グラウンドテクも相当なもの。総合メジャージム対決はATT(BTT)に軍配が上がった。3年前とは別人だ。
【大会総括】
良くも悪くも、HERO'Sにとって分岐点となる大会だった。”冗談みたいない団体”と揶揄されてきたが、選手だけでなく、掲げていた”MMA ICON”として大会そのものも、日本の砦となって欲しい。事実、集客は前大会を遥かに凌いでいたし、ミーハーな女性客だけでなく、カードや参戦選手と共に再開されないPRIDEのファンも多く来場していた。だから、ココからが正念場である。質の良いコンテンツと注目を浴びるマッチメイク。この対極な事案を如何に両立するかで、HERO'Sに本当のHEROが生まれ来るだろう。しっかし、娘さんたちは、ワーキャーと元気にうるさい。まぁ、彼女達も今や大事なファンだ。ガマンがまん。
良くも悪くも、HERO'Sにとって分岐点となる大会だった。”冗談みたいない団体”と揶揄されてきたが、選手だけでなく、掲げていた”MMA ICON”として大会そのものも、日本の砦となって欲しい。事実、集客は前大会を遥かに凌いでいたし、ミーハーな女性客だけでなく、カードや参戦選手と共に再開されないPRIDEのファンも多く来場していた。だから、ココからが正念場である。質の良いコンテンツと注目を浴びるマッチメイク。この対極な事案を如何に両立するかで、HERO'Sに本当のHEROが生まれ来るだろう。しっかし、娘さんたちは、ワーキャーと元気にうるさい。まぁ、彼女達も今や大事なファンだ。ガマンがまん。
闘議(とうぎ)ミドル級T決勝戦観戦記_前編 ~070917_HERO'S~ |
u-spirit 2007.09.27 |
開幕は前のオープニングファイト3試合が長引き15分遅れでスタート。会場の客入りはKID効果もあり、開始前から9割方の座席が埋まっていた。(後に12,310名と場内で発表あり)
先ずは、日明兄さんがカール・ゴッチ先生の遺影を胸に抱き、会場全員で10カウントの黙とうから。偉大なるカール・ゴッチの意志を継ぐ男達よ!との日明兄さんの掛け声で開幕。
先ずは、日明兄さんがカール・ゴッチ先生の遺影を胸に抱き、会場全員で10カウントの黙とうから。偉大なるカール・ゴッチの意志を継ぐ男達よ!との日明兄さんの掛け声で開幕。
第1試合 リザーブファイト
宮田和幸×ハービー・ハラ
宮田和幸×ハービー・ハラ
前回同様、宮田のポテンシャルが存分に出た試合だった。ハービーは入場コスチュームと入場曲の選曲が光っただけに、実力の方に疑問符が残る。宮田が2連勝できた理由をあえて探すなら、たった2週間の修行だけで、ムエタイを習得したとは言い難いが、自身の打撃向上よりも、KID戦で受けた膝蹴りの”トラウマ”を克服する事に成功し、飛び込む勇気を取り戻したのだろう。それにしても、あんなに綺麗なアームバーは久しぶりに見た。
第2試合 ミドル級トーナメント準決勝戦
宇野薫×アンドレ・ジダ
宇野薫×アンドレ・ジダ
”THREE BRAZILIANS & ONE JAPANESE”となってしまった大会の準決勝、日本最後の砦となりし、宇野薫は黄色い声援を背に、いつもの波長で淡々と入場してきた。対するジダはブラジルカラーのサクマシーンマスクを被り、セコンド陣がTシャツを客席に配布しながら、陽気にのんびり入場してきた。試合は序盤にジダの膝蹴りをモロに食らい消耗してしまった王子が判定負け。諦めずに背負った期待に答えようと、必死で最後までもがいたが、間に合わずTHE END。試合中、黄色い声援は悲鳴へと変わっていた。それ位、ジダは宇野を圧倒し前へ出ていた。
第3試合 ミドル級トーナメント準決勝戦
J.Z.カルバン×ビトー“シャオリン”ヒベイロ
J.Z.カルバン×ビトー“シャオリン”ヒベイロ
個人的に優勝候補と目していたシャオリンが計量失敗と聞き、体調不良が心配されたが案の定、シャオリンは出鼻を挫かれ、簡単に寝転がされて、J.Z.のパウンドラッシュを浴びて即、終了。入場パフォーマンス長く、試合の短いJ.Z.はある意味、プロフェッショナル。シャオリンの実力はこんなもんじゃない。調整不足が悔やまれる。
第4試合 無差別級
ミノワマン×ケビン・ケーシー
ミノワマン×ケビン・ケーシー
遂にHERO'Sのリングにミノワマン登場。煽りVTRでつかみはOK。入場は、いつものダッシュ!!!!ケビンのセコンドにヒクソンの姿を確認。試合はヒクソン仕込みの膝狙いの前蹴りで距離を測るケビン。ミノワマンも不用意には飛び込めないが押し込むケビンと耐える超人の我慢比べ。1R中は、バックを取られ窮地に陥るもミノワマンは凌ぎきる。2R開始早々、ミノワマンのフックがケビンを捉えて、ケビンは連打に絶えられず亀状態に。尚も鉄槌を振り下ろすミノワマンにレフリーがストップをかけると会場は爆発!!恒例の”SRF8回”もしっかり決まって、最高のHERO'Sデビューを飾る。
第5試合 85kg契約
ユン・ドンシク×ゼルグ“弁慶”ガレシック
ユン・ドンシク×ゼルグ“弁慶”ガレシック
前試合でブルファイター猛獣マヌーフを仕留めたユン、今度はタイプの違う打撃の”キレる”弁慶にどう挑むのか?試合は弁慶が有利と思いきや、ユンが圧倒的にコントロール。足をかけながら体重をあずけてテイクダウンを奪うと、弁慶の長所だったリーチ(長い手足)を逆に利用して、腕を取り一気に極めたユン・ドンシク。サクも認める実力はホンモノの様だ。けして”噛ませ犬”なんかではない。
第6試合 88kg契約
メルヴィン・マヌーフ×ファビオ・シウバ
メルヴィン・マヌーフ×ファビオ・シウバ
見た目もファイトスタイルもヴァンダレイに
そっくりなファビオ・シウバ、期待値高く初見参!もマヌーフとのブルファイター対決に左フックをカウンター気味に食らい崩れ落ちる。即座に意識を取り戻したものの、マヌーフに上からパウンドを4、5発打ち込まれる。見かねたレフリーが両者に割って入り試合を止めた。ファビオとセコンド陣は、早いストップに不満を示すも、相手のセコンド陣とも握手を交わす。さすがシュートボクセ、紳士である。
第7試合 無差別級
アリスター・オーフレイム×セルゲイ・ハリトーノフ
アリスター・オーフレイム×セルゲイ・ハリトーノフ
大会前、”PRIDEっぽい試合”と谷川氏が言っていたのは、このカード。確かに、”まんまPRIDE”だが、アリスターはPRIDEでの”欠点”を克服できず、バッテリー消耗が早いまま。序盤はロングフックを有効に使い、ハリを苦しめるも、2、3発返しのパンチを喰らうと、いつもの様に急激に失速し、背を向けて試合終了。ハリトーノフの勝利後、ヴォルク・ハンは一目散でリングに上がり、チームと喜びを分かち合っていた。ミーシャ、パコージン、ハン、の3人がリングで揃い踏みの姿に往年の懐かしさを感じ、感慨に浸っていたのは、この会場で何人いたのでしょう?もしかして、僕だけか?
後編へ続く
後編へ続く
闘議(とうぎ)ミドル級T開幕戦観戦記 ~070716_HERO'S~ |
u-spirit 2007.07.22 |
台風一過で久々の晴天。3連休最後の休日を有意義に過ごそうとする車で、港北地区は大渋滞。裏道を抜けながら、なんとか50分前に到着。会場入りの時、偶然、セコンドから引き上げてくる田村潔司と遭遇。メインゲートの装飾はベガスをイメージしているのか?コンサート会場の様で格闘技イベントっぽくない気が…。スポンサーがパチンコメーカーだけに仕方ないか。着席時にネットで参戦が噂される”ダッチ・サイクロン”アリスター・オーフレイムを西アリーナ席で発見。90%くらいの客入りで、まずまず。実券販売席はほぼ埋まっているが、招待席エリアに空席が目立つ。10分押しで開会。
第1試合
勝村周一朗×アレッシャンドリ・フランカ・ノゲイラ
勝村周一朗×アレッシャンドリ・フランカ・ノゲイラ
ペケーニョは、所に敗れたものの修斗ライト級王座を5年以上も保持し続けた実力は伊達ではない。勝村選手との対戦は、高度な技術の”極め合い”と予測を裏切り、打撃の応酬となり、真っ直ぐ後退する。勝村のチンにペケーニョフックが炸裂してKO葬。勝村選手はZSTルールの方が向いている。会場へ向かう途中、ペケーニョ兄弟と親交の深い”入谷久美”さんを見かけた。さぞ、喜ばれている事だろう。
第2試合
アンドレ・ジダ×ウマハノフ・アルトゥール
アンドレ・ジダ×ウマハノフ・アルトゥール
ノーガードスタイルで、不気味なウマハノフはジダの早いジャブを見切る。ジダも戦法を変更し、ローキックから組み立て、踏み込んでフックから連打を繰り返し、クリーンヒットを数発あてると、堪らず、しゃがみ込んだウマハノフを追撃してKO。桜庭が認めた男って触れ込みは…如何な物か?
第3試合
柴田勝頼×ハレック・グレイシー
柴田勝頼×ハレック・グレイシー
プロレスラー期待の星、柴田の総合第二幕だったが、キッチリ、グレイシーマジックの餌食となり腕を取られ、無念のタップアウト。若さ故の”練習ぶっ飛び、脳天空白状態”が端で観ていて分かった。船木との練習で培った10分の1も出せなかった事は本人が一番、悔いているだろう。少しでもクレイバーさを持てれば…。関係ないが、この試合”UZI”がリングアナとして登場していた。
第4試合
宮田和幸×ビトー・“シャオリン”・ヒベイル
宮田和幸×ビトー・“シャオリン”・ヒベイル
宮田は頑張った。勇気と戦術で試合をコントロールし有効な打撃を随所に繰り出していた。しかし、ヒベイルはその上をいく化け物だった。何と冷静で、何と俊敏な動きだろう。ヒベイルに転がされたら”敗北”が決定してしまうのか?パスと同時に肩固めって…早すぎるよ。どんな練習したら、あんな連動した動きが出来るんだ。
第5試合
ブラックマンバ×所英男
ブラックマンバ×所英男
まぁ、所の人気は凄い。しかし、ブラック・マンバことカルター・ギルとでは、本来の階級が違う気がする。終始、バックを取られて上手に転がせない所は、マウントパンチの餌食となり、レフリーに止められる。昨今の格闘技において多用される”リベンジ”の虚を垣間見た。誰も得しない試合だった。
ここで20分の休憩。
そして、休憩明け前田日明SVがリングイン。船木誠勝が呼び込まれて”現役復帰”を宣言。しかし、若年層のTV先入型ファンが集う会場の反応はイマイチ。これがPRIDE埼玉アリーナなら爆発している。船木が自己紹介で「ヒクソンに惜しくも負けてしまい」と説明したコメントに笑いが起きたのが救い。15才でデビューした天才が7年の沈黙を破り復帰する。感慨深いが、船木はデビューが早かった分だけ、年齢的には田村や桜庭と同世代。まだ、充分できるだろう。
そして、休憩明け前田日明SVがリングイン。船木誠勝が呼び込まれて”現役復帰”を宣言。しかし、若年層のTV先入型ファンが集う会場の反応はイマイチ。これがPRIDE埼玉アリーナなら爆発している。船木が自己紹介で「ヒクソンに惜しくも負けてしまい」と説明したコメントに笑いが起きたのが救い。15才でデビューした天才が7年の沈黙を破り復帰する。感慨深いが、船木はデビューが早かった分だけ、年齢的には田村や桜庭と同世代。まだ、充分できるだろう。
第6試合
宇野薫×永田克彦
宇野薫×永田克彦
宇野薫はトータルファイターでバランスが良い。しかし、試合中、相手と流れに合わせる傾向があり積極的とは言い難い試合になる事が多々ある。勿論、今回もポイントは薫王子が取っていた。が、本当にこれで良いのだろうか?過去のルミナ戦を知る者から観れば、物足りないとしか言えない。あの”ルミナ越え”の輝きを取り戻して欲しい。10代と思しき乙女たちの”カオルくん〜”って声援に”32歳ですから”と突っ込みたくなった。
第7試合
メルヴィン・マヌーフ×ベルナール・アッカ
メルヴィン・マヌーフ×ベルナール・アッカ
スタンドスキルの差が余りにありすぎて、気の毒だった。これは無理な話だ。しかし、アッカは超人マヌーフの強打を喰らっても失神せず、戦意も失っていなかった。一言、立派である。身体能力は秀でているので、片手間でなく本気で練習し、コンビネーションやガードを覚えれば、ソコソコ闘えると思う。特に”アッカ蹴り”は、有効な武器だと思う。
第8試合
田村潔司×金泰泳
田村潔司×金泰泳
何も言葉がない。歴代ワースト試合かも。田村のあのバテ方は、何だろう。田村は負けてはいないが、勝ってもいない。凌いだ者と攻めあぐねた者の試合。ただ、それだけ。プロにあるまじき試合。これがメインカードでは、泣けてくる。会わせる顔もなく日明兄さんの前も素通り。「仲間内のスパーリングだけでは試合の準備としては足りない部分があるしね。」との日明兄さんの言葉が胸に響く。田村が選手として下降線を急激に転がっている事に焦りと悲哀を感じた。そして、また”幻想”との揶揄に、耐えねばならぬ日々が来る。
<総括>
HERO'Sの会場は、TVから取り込んだ若年層(女性)ファンが多く、黄色い声援が彼方此方で聞こえていた。しかし、若干、お行儀が悪い気がした。試合中に席を立ち、頻繁に出入りする。目的の選手以外の試合は、メール、おしゃべり、おやつとまさに教室の様だ。興行戦略として、彼女たちを取り込むには成功したが、本当に”惹きつける試合がない”という事実の裏返しでもある。PRIDEが頓挫したままの今日、窮地にある日本の総合格闘技を背負って立つ!との意気込みに異論はないが、肝心の選手選考とマッチメイクをもっとシビアに考えて欲しい。人気獲得の為に、エントリー選手を日本人で固めていては、不公平感がいつでも払拭できない。ベルトの価値は積み重ねた試合の濃度で決定する。やはり、非力なれど日本人という理由で、いつまでも永田や宮田のポテンシャルの高さだけを信じて待つにも限界がある。噂されるPRIDE系の新たな強豪選手を連れて来られるか?が今後のHERO'S、如いては日本の総合格闘技発展をも握る重要なカギとなる気がする。
最後に称えたい事柄を。今大会のレフリングは最高に素晴らしかった。特に試合を止めるストップのタイミングが、非常に適切で安心して観戦できた。この競技性向上を踏まえた改善は賞賛に値する。今後も手本となる様に、この水準を維持して欲しい。それと、解説に中井祐樹氏を登用したのも競技普及には非常に良い選択だったと思う。
HERO'Sの会場は、TVから取り込んだ若年層(女性)ファンが多く、黄色い声援が彼方此方で聞こえていた。しかし、若干、お行儀が悪い気がした。試合中に席を立ち、頻繁に出入りする。目的の選手以外の試合は、メール、おしゃべり、おやつとまさに教室の様だ。興行戦略として、彼女たちを取り込むには成功したが、本当に”惹きつける試合がない”という事実の裏返しでもある。PRIDEが頓挫したままの今日、窮地にある日本の総合格闘技を背負って立つ!との意気込みに異論はないが、肝心の選手選考とマッチメイクをもっとシビアに考えて欲しい。人気獲得の為に、エントリー選手を日本人で固めていては、不公平感がいつでも払拭できない。ベルトの価値は積み重ねた試合の濃度で決定する。やはり、非力なれど日本人という理由で、いつまでも永田や宮田のポテンシャルの高さだけを信じて待つにも限界がある。噂されるPRIDE系の新たな強豪選手を連れて来られるか?が今後のHERO'S、如いては日本の総合格闘技発展をも握る重要なカギとなる気がする。
最後に称えたい事柄を。今大会のレフリングは最高に素晴らしかった。特に試合を止めるストップのタイミングが、非常に適切で安心して観戦できた。この競技性向上を踏まえた改善は賞賛に値する。今後も手本となる様に、この水準を維持して欲しい。それと、解説に中井祐樹氏を登用したのも競技普及には非常に良い選択だったと思う。
闘議(とうぎ)格闘フォークソング ~070408_PRIDE.34~ |
u-spirit 2007.05.09 |
格信犯編集部東京支部:u-spiritさんのブログ: U魂(ウコン)でのコラムを加筆・修正ののち、転載させていただきました。皆様からの寄稿もお待ちしております。投稿はContact Us からお願い致します。
現体制の最後のPRIDE、クライマックスは休憩明けに訪れた。榊原代表がマイクを取り語りだす。「実現できなかった”そんなカード”…」
”SPEED2”のテーマでマスク姿の男がセリ出しから現れた。涙を拭いながら歩を進めリングへ向う”裏切りの英雄”を皆が凝視した。徐々に近づいて来る男が”リアル桜庭和志”だと確信すると、歓喜から絶叫へと会場のボルテージは一気に爆発した。前夜、「とんでもない事が…」との連絡を受け、半信半疑まま会場へ出向いていた僕自身も、起きるはずのない奇跡に身震いが止まらなかった。
会場の興奮が覚めやらぬ中、更にセカンド・インパクトが勃発する。”FLAME OF MIND”が鳴り響き、今度は逆側から田村潔司が”何か”を噛み締める様に、沈痛な面持ちで桜庭の待つリングへと向ってくる。正にドリームステージ・エンターテーメント。榊原代表を挟んで、井出達こそ普段着だったが桜庭和志と田村潔司が遂にリング上で交わった。この瞬間を生涯忘れまいと、涙で霞む映像を必死に脳裏へと格納する。それは限りなく”幻想”に近い”現実”であった。
桜庭曰く「このリングでもう一度、試合がしたい」
田村曰く「桜庭と僕が夢の架け橋になれれば」
田村曰く「桜庭と僕が夢の架け橋になれれば」
このセンチメンタルな光景を堪能しているとムードを遮る野次が飛んだ。
「今さら、どうでもいいよ!帰れよ!」
「今さら、どうでもいいよ!帰れよ!」
試合に勝てない、桜庭和志。
試合をしない、田村潔司。
試合をしない、田村潔司。
野次る彼らはMMAが確立された現世代の人、昨今、不甲斐のない成績である”老兵”二人が「何を今さら…」との意見も分かる。彼らは”強者が全て”という価値観で試合を観せられてきた。皮肉にも、その尺度を観衆に定植させたのは、刺激的なGP興行を連発したDSEであり、他ならぬ榊原代表自身でもある。格闘ジャンキーな彼らに対し、最後の最後に”格闘ロマン”を押し付けても理解はされない。事実上、UFCの軍門に下った今、新オーナーや米国ファンに対し、PRIDEは”世界最強”の称号を確立させるベクトルで運営すべき時に、グローバルに考えれば”不要”なエッセンスと言われても仕方ない。
本来なら、今回も出場する気で来日し、リングサイドで日本人の”自己満足”を見守っていた最大貢献者のシウバと、その絶対王者を沈めたヘンダーソンを絡めたチャンピオンシップの提案する方が、米国の関係者も米国ファンも納得したかもしれない。しかし、PRIDEはMADE IN JAPAN。日本人が日本人の”大和魂”を揺さぶる代替えのない最高の試合である"桜庭vs.田村"の必要性を榊原代表は「PRIDEの全てが凝縮された試合」と表現した。
その意を酌んで少し補足説明するなら、桜庭と田村の対峙は音楽で言うと”フォークソング”だと思って欲しい。それは何故か?誰もが感じる人生の悲哀や魂の叫びをテーマに、横文字を含まない純粋な日本語で綴られた歌詞、無理のないテンポの切ないメロディー、その全てが日本人の心に沁みる”純国産歌”であり、60年代の若者たちの象徴だった。同じく日本に誕生した純国産の総合格闘技である”U.W.F.”も80〜90年代の僕たち世代の格闘バイブルと呼べる。当時、”日本人最強”という鮮烈なプロパガンダに若者はアジテーションされ、”純国産格闘技”を武器に大人、世間、世界に立ち向かう集団に熱狂し、勝敗とは別の次元で多くのファンは共鳴していた。そこに生きた若者は、昨今、多く見受けられる予定調和の”事勿れ主義”や苦手逃避の姿勢ではなく、仲間内と言えど確執や孤立を一切、恐れずにぶつかり、結果として傷付いても、挫折しても常に這い上がっていく無骨な”生き様”をリングで誇示してきた。
新世紀の若者から見れば”フォーク”も”U.W.F.”も時代遅れで”ダサい”ジャンルかもしれない。しかし、どんなに時代が変貌しようとも、名曲として数多くのフォークソングが愛され歌い継がれている事実と同様に、今日の総合格闘技を形成する礎となった”U.W.F.”にも多くのファンが今なお、敬意を持っているのも事実。PRIDE世代はヒストリーやプロセスを事後資料で聞き入れ、「所詮はプロレス」と揶揄しているが、例えば、今の若者が”HipHop”のリリックに何らかのバイブスを感じる理屈と同一なんだと理解して欲しい。仮に自分達のリスペクトしている国産HipHopやそのアーティストに対して、所詮、「黒人の真似事だ」と否定されれば気分を害するだろう。いつの時代に措いても若者の”魂”を揺さぶり人生の不安と闘う為のバイブルは必ず存在する。そして、その象徴は本物であればある程、時を経て思い出と同じく色褪せても忘れる事はない。
周知の事実である桜庭の”田村嫌い”は一時、相当に根深いものであった。田村が初参戦したPRIDE.19のシウバ戦の際、桜庭は会場にさえ来なかった。高田は解説を拒否して離席した。両者ともUインター時代の”裏切り者”に五年の歳月では刑期満了と見なさなかった。その後、高田は自身の引退試合を経て田村と和解したが、桜庭だけが再三の”年末オファー”を断る田村に、嫌悪感を露に「理解できない」と吐き捨てていた。その時、田村は「桜庭に伝えたい事は、沢山あるが引退した時に話そうと思う」と述べ、互いの現役中に理解し合える事は不可能だと感じ、半ば諦めていた。
しかし、因果応報。今度は桜庭が”出戻り”という立場となった。そんな桜庭に田村は開口一番で「サクの思いを図って欲しい」と観客に告げ、リングを降りる際に桜庭の耳元で「がんばろうな」と囁き肩を抱いて”勇気”を称え、桜庭は田村の言葉に涙した。対照的に師匠である高田からは、露骨に怪訝な顔で握手され、素気ない態度をとられた。己の信念を曲げずに行動した結果、周囲との軋轢が生じてしまい、孤立し逆境に追い詰められ、孤独感を身をもって経験した桜庭は、田村の味わってきた”苦しみ”を知り、初めて互いを理解した瞬間だった気がする。
これまで非常に長く悲しい二人の道程ではあったが、田村が頑なに桜庭戦を拒絶してきた理由が、まるでこの日が来ることを予知していたかの様にも思えた。もう、多くの言葉は要らない。人間て、弱くて脆いが、強くも優しくもある。それを体現してきた二人の男の生き様を見届けよう。知らない世代であっても、何かを感じとれるはずだ。そんな二人の対戦が実現した時は、泉谷しげるの名曲が頭の中で流れてくるだろう。
「春夏秋冬」
作詞/作曲:泉谷しげる
季節のない街に生まれ 風のない丘に育ち
夢のない家を出て 愛のない人に逢う
人のためによかれと思い 西から東へかけずりまわる
やっと見つけたやさしさは いともたやすくしなびた
春をながめる余裕もなく 夏をのりきる力もなく
秋の枯葉に身をつつみ 冬に骨身をさらけ出す
今日ですべてが終わるさ
今日ですべてが変わる
今日ですべてがむくわれる
今日ですべてが始まるさ
作詞/作曲:泉谷しげる
季節のない街に生まれ 風のない丘に育ち
夢のない家を出て 愛のない人に逢う
人のためによかれと思い 西から東へかけずりまわる
やっと見つけたやさしさは いともたやすくしなびた
春をながめる余裕もなく 夏をのりきる力もなく
秋の枯葉に身をつつみ 冬に骨身をさらけ出す
今日ですべてが終わるさ
今日ですべてが変わる
今日ですべてがむくわれる
今日ですべてが始まるさ