「闘議(とうぎ)」出張版日本では総合格闘技を武道とす ~061231_秋山×桜庭~ |
u-spirit 2007.01.18 |
秋山、それはアカン。この期に及んで、言い訳するのはアカン。サクが言うように入場時に一緒に座礼した子供たちに何と説明するんだ。”総合格闘技”その物が踏みにじられた気持ちだ。本当に悲しい。多汗症と言い訳した後に、感想肌なのでボディークリームを塗ったと言えば、辻褄が合わない事は子供でも理解できる。練習中に剥がれたと言い訳したグローブのロゴも、熱転写したプリントが剥がれると言うなら、買ってきたプリントTシャツは一度でも洗濯したら全部、無地になるよ。仮に事実としても、主催者側に申し出て新たなグローブを用意してもらうのが筋だ。それでも、故意ではないと言い張るなら、貴方は残念ながら格闘技に向いていない。
そして、こんな茶番記者会見を2回も開いているFEGも情けない。総合格闘技がここまで到達できたのは、今日までの多くの選手や関係者による苦難や犠牲があってこそ。ゴルドーに目を潰されても、総合格闘技発展のために残虐な競技と思われたくない一心で、失明しても沈黙を守り続けた中井祐樹しかり、今回の被害者である桜庭和志に至っては、総合格闘技界の発展に一番、貢献した選手だと分かって秋山自身も”尊敬”を口にしてきたはずだ。グレイシーが要望してくる無理難題の条件や要求を不利になると理解しつつも全て承諾した上で、完全に勝利してみせた桜庭和志の”心意気”に多くの日本人が共鳴し、忘れかけていた”武の精神”を思い出したんだ。
秋山が歩んできた柔の道も元来は武道。「武道精神」や「美徳」を持たずに、飽く迄も勝たねばならぬ、手段は選ばぬ、なら、知名度は気にせずに、公でなく私的に闇で闘えばいい。自己主張する前に、総合格闘技界で夢を持って鍛錬を続けている選手、それを支える関係者に謝罪の意があるなら、今は自ら立ち去るべきだと思う。こんな不正をしたら他競技なら追放になるだろう。総合格闘技にグレーがあってはならない。リアルっぽいファイトでは心に響かない。進化した究極の武道とも言える総合格闘技であっても、精神は永久不変、武の道は人の道、皆、勝敗以上にその生き様を観ている。
総合格闘技向上委員会ver.23.0 失態の重責を糧に変えて ~061231_秋山×桜庭~ |
marc_nas 2007.01.13 |
私はコラム執筆の際、昔は感情の赴くままに書き殴ったが、最近は偏った意見にならぬように客観的に、怒り・哀しみがあったとしてもなるべく冷静に、これを心掛けている。かといって、誰かの目を気にして媚びるわけではなく、自らのカラーと主たるコンセプトは歪めてはいないつもりである。
1月5日にアップした「ver.22.0 世間に晒した失態 ~K-1 Dynamite!!@大阪~」についても客観的かつ冷静に書いたつもりだ。"当事者でない私たちが憶測で物を言ってはならぬ"と、フラットな視線ということを意識しすぎて、秋山選手に対して黒ではないかと疑いながらも、不正はないものと仮定して書いた節があった。だから、秋山:○、桜庭:△、梅木:×、会社(審判団含め):××、に近い言動をした。
しかし、一昨日事態は急変した。FEG(K-1運営会社)が出した裁定は秋山=黒、試合はノーコンテスト、ギャランティ全額没収、関わった審判団のギャランティも50%没収だった。つまりFEGの裁定では、秋山:××、桜庭:○、梅木:○、審判団:×、なのだ。
FEGの調査では、入場ゲート直前で秋山選手が道衣を脱ぎ、セコンド陣が全身にクリームを塗っている映像がTBSの密着クルーにあったと。また、梅木レフェリーは桜庭選手のアピールに対する処理、ストップのタイミングも、リング下の判断を仰ぎながらTKOとしたのもルール上、何も問題なしと。
まず、秋山選手に思うこと。
「ワセリン・タイオイルは認められないが、クリームはOKだと思っていた」と認識ミスをアピール。故意ではないとしても、乾燥肌だったとしても、なぜ試合直前にスキンクリームを塗るのか。オリンピック選手は大会直前に風邪をひいても、市販の薬は服用せずに耐える。服用するとしても慎重に調査した上で漢方などだ。もちろん、ドーピング検査を考慮してのことである。それが、プロのアスリートなのだ。
試合後の会見でもジェントルに「多汗症です」と言い放ったのは何故か。桜庭選手に罪悪感はなかったのか。いち秋山ファンとして、正直残念に思う。
「ワセリン・タイオイルは認められないが、クリームはOKだと思っていた」と認識ミスをアピール。故意ではないとしても、乾燥肌だったとしても、なぜ試合直前にスキンクリームを塗るのか。オリンピック選手は大会直前に風邪をひいても、市販の薬は服用せずに耐える。服用するとしても慎重に調査した上で漢方などだ。もちろん、ドーピング検査を考慮してのことである。それが、プロのアスリートなのだ。
試合後の会見でもジェントルに「多汗症です」と言い放ったのは何故か。桜庭選手に罪悪感はなかったのか。いち秋山ファンとして、正直残念に思う。
そして、梅木レフェリーに思うこと。
K-1からのペナルティこそなかったが、梅木レフェリーは試合後に秋山選手の体を触ってチェックしていたではないか。普段の梅木レフェリーなら、リング下の指示を仰がなくとも自己判断でストップしたのではないか。確かに梅木レフェリーのブログを炎上を含め、あの試合のレフェリングというのは情状酌量の余地こそあるが、彼にもペナルティを与えてもよかったのはないかとも思う。ただ、猛省していた姿はなんだか可哀想にも見えたが。
K-1からのペナルティこそなかったが、梅木レフェリーは試合後に秋山選手の体を触ってチェックしていたではないか。普段の梅木レフェリーなら、リング下の指示を仰がなくとも自己判断でストップしたのではないか。確かに梅木レフェリーのブログを炎上を含め、あの試合のレフェリングというのは情状酌量の余地こそあるが、彼にもペナルティを与えてもよかったのはないかとも思う。ただ、猛省していた姿はなんだか可哀想にも見えたが。
最後に、審判団を含めたFEGに思うこと。
正月休みがあったから8日以降に調査が始まった、これでは遅い、遅すぎる。これだけ世間を騒がせ、ファン達がグローブ問題についても糾弾していたのだ。正月休みを献上してでも、事態の収拾を図って欲しかった。しっかりと調査をしていない段階で、秋山選手を擁護するような発言をしてほしくなかった。
正月休みがあったから8日以降に調査が始まった、これでは遅い、遅すぎる。これだけ世間を騒がせ、ファン達がグローブ問題についても糾弾していたのだ。正月休みを献上してでも、事態の収拾を図って欲しかった。しっかりと調査をしていない段階で、秋山選手を擁護するような発言をしてほしくなかった。
偉そうに真っ当なことばかり書いて、申し訳ないが、最後に言いたいことを一つだけ。
世間の目に最も触れる大晦日のメインの試合での失態。試合の映像だけしか観ていない人にも、この裁定を知った人にも、今回のことで与えた格闘技へのバッドイメージは大きい。キックボクシング・柔術・総合格闘技のオリンピック正式種目化を望む私としては、いや、いち格闘技ファンとして今回の事態はお粗末そのもので、哀しく思う。何年もかけてやっと格闘技が、このステージまで上り詰めたのだ。この重責を背負って、糧にかえて、二度とこのようなことが起こらぬように、メジャースポーツにある中立的なコミッションの設立を望む。
世間の目に最も触れる大晦日のメインの試合での失態。試合の映像だけしか観ていない人にも、この裁定を知った人にも、今回のことで与えた格闘技へのバッドイメージは大きい。キックボクシング・柔術・総合格闘技のオリンピック正式種目化を望む私としては、いや、いち格闘技ファンとして今回の事態はお粗末そのもので、哀しく思う。何年もかけてやっと格闘技が、このステージまで上り詰めたのだ。この重責を背負って、糧にかえて、二度とこのようなことが起こらぬように、メジャースポーツにある中立的なコミッションの設立を望む。
総合格闘技向上委員会ver.22.0 世間に晒した失態 ~061231_秋山×桜庭~ |
marc_nas 2007.01.05 |
今年は数年ぶりに会場ではなく、TVでの観戦となったK-1 Dynamite!!。須藤元気選手の引退、曙選手、ホンマン×ボビー戦など話題はは山ほどありますが、今も世論を真っ二つに分ける秋山成勲×桜庭和志戦についての、僕なりの見解を。
最初に言わせてください。僕は桜庭選手がやっぱり大好きです。また秋山選手も世界柔道を、彼目当てに観に行ったほど好きです。また梅木レフェリーにも絶対の信頼を置いています。ですから、なるべくフラットな立場で、分析したいと思います。
試合中に何度も"滑る"とアピールする桜庭選手。前回同様、危険な状態なのに、一向にストップされない試合。後味の悪い、試合後の"何かを塗っていたのではないか"との疑惑。
もし、桜庭選手でなく無名の外国人選手だとしたら、こんなに同情があったのか、否。
もし、桜庭選手ではく無名の外国人選手だとしたら、あんなにストップが遅かったのか、否。
秋山選手、桜庭選手、梅木レフェリーのそれぞれの立場になって、諸悪の根元と、なぜこうなってしまったのかを考えてみる。
もし、桜庭選手でなく無名の外国人選手だとしたら、こんなに同情があったのか、否。
もし、桜庭選手ではく無名の外国人選手だとしたら、あんなにストップが遅かったのか、否。
秋山選手、桜庭選手、梅木レフェリーのそれぞれの立場になって、諸悪の根元と、なぜこうなってしまったのかを考えてみる。
もし、自分が秋山選手だった場合を想定してみる。間違いなく、グラウンド状態で殴る手は止められなかった。ただ、桜庭選手のアピール直後に、一旦ストップが入らないように焦って殴っているようにも見える。もし、オイルを塗っていなかったとしたら、試合後の疑惑について、会見で憤慨してしまうだろう。もし、塗っていたとしても"スタンドの攻防でのことじゃないか"と言い訳をしてしまうだろう。しかし、翌日の秋山選手は会見では比較的ジェントルな対応を取っていた。一方的勝利と、会見での対応は評価したい。
しかし、忘れてはならないのは彼にはいくつか前科がある。くまさんのブログを読むと、限りなくクロに近いのではないかと思ってしまう。
もし、自分が桜庭選手だった場合を想定してみる。同様に試合中に必死にアピールをしただろう。しかし、以前の桜庭選手ならガードポジションなり、ちゃんと防御し体制を整えてから、ストップの要求をしたのではないかとも考えてしまう。そして、自分なら会見を開き、再戦を求める。未だ、精密検査中なのか、会見は開かれていない。
また、その前科を桜庭選手が事前に知っていたのかどうか、前回同様、レフェリーに疑心暗鬼が生じていたのではないかとも考えてしまう。
もし、自分が梅木レフェリーだった場合を想定してみる。まず単純に、止めるのが遅すぎた。最後のパウンド状態の際も、心配そうに廻りを見渡しているようで、ストップよりゴングの方が早かった。スタンドでの攻防の際に、桜庭選手がタイムのサインを出した際に、解説席の宇野選手も"目に指が入ったんですかね"と異常に気付いたのに、「アクション」と繰り返した。あの時に、一旦チェックするべだった。また、試合後のチェックももっと入念にすべきだった。梅木レフェリーも年末の大一番を任され、いつもの冷静沈着な彼ではなかったのか。度重なるレフェリング問題で、最後の砦となった梅木レフェリーも慎重になりすぎたのか。
ここまででは、梅木:×、桜庭:△、秋山:○となりそうだが、他にも起因するところはある。まず、試合前、試合後のチェックの甘さ。こうなってしまったのなら、桜庭・秋山両選手の試合当日のグローブ・パンツなどを回収してでも徹底的に再検査すべき。また、違反があった場合は、然るべき罰則を与えるべき。更に言うなら、修斗や相撲のような中立的なコミッションを設立すべき。そして、キッチリ再戦を行うべき。
それと、どうしても我々ファンが引っかかるところは、秋山選手の前科。穿った目で見てしまってはいるが、それは人間心理として致し方ない。しかし、皆さんにはもっとフラットな視線で見て頂きたい。それは、桜庭選手に対しても。桜庭選手には以前からどうしても同情票が多い。私もその一人であるのだが。しかし、冷静に考えると桜庭選手の一方的な発言ともとれるということである。その発言を鵜呑みにして、断罪してはならないということ。
やはり、FEG側には状況証拠を揃えた上で検証して頂きたい。年末の大一番は格闘技が最も世間に触れる一日。しかし、その後の情報というのは、コアなファンのみがネットや紙面で目にすることしかできない。あの試合映像しか観ていない人達が、格闘技に対してどう思うのか。それが格闘技にとっていいことなのか。検証か再戦なくして、格闘技に対しての悪印象の払拭はあり得ない。
Hero's Eye二つの勝負に勝った男 ~K-1 WORLD GP@大阪~ |
Hero 2006.10.12 |
昨年の大阪ドームから、今年は大阪城ホールへとスケールダウンした形となったK-1ワールドGP開幕戦。キャパシティから考えると満員となってしかるべき会場ではあるのだが、試合開始時間が迫っても8割程度の入り。今回、会場入りしてすぐに感じたことがある。メジャーイベントの会場に必ず満ち溢れているものが何か足りない。しばらく考えて分かったのは、観客から試合前の緊張や期待が感じられないこと。オープニングの選手紹介が始まっても、観客のボルテージがなかなか上がらない。出場選手が一人ずつ入場してきても歓声、拍手はまばら。観客の熱は必ず選手に伝わるものである。会場の低いテンションがさらに試合内容を低下させるのか、それとも、すばらしい試合を繰り広げ、落ち込んだ会場のテンションを上昇させるのか。出場選手にとっては対戦相手だけではなく、観客までもが攻略すべき強力なライバルとなった。
しかし、そこはさすがにK-1である。第一試合から徐々に高まった観客のボルテージは、メインカードで最高潮になる。それを演出したのは残念ながら2名の日本人ファイターではなく、韓国人とフランス人の両ファイターであった。
ジェロム・レ・バンナはなんと試合当日の来日。コンディションに疑問符がつく状況であったにもかかわらず、冷静な闘いを展開した。試合開始序盤はローキックから攻め手を見出し、スキを見て懐へ飛び込んでのボディーブロー。しかし、このボディーがまったく利かない。試合後のインタビューで彼はこう明かした。
「ローを多用したのは、それしか打つ手がなかったからさ。彼は岩のような男だ。体のすべてが固かった。自分の足のダメージも大きいよ。2年もすれば彼をKOできるやつはいなくなるだろう」
ローキックは作戦ではなく、そうせざるを得なかったわけだ。ただそんな中でも冷静に手数を増やし、前に出る気持ちを絶やさなかったことが大巨人を追い詰めていくことになった。
チェ・ホンマンは、パンチ対策にポイントをおいていたことを試合後のインタビューで明かした。飛び込んできた相手にヒザを打ち込むというのがこの試合のプランだったようだが、パンチを打ってこない相手に対して戦略をアジャストすることができなかったのが敗因だろう。ローを打って距離をとってくる相手に対して、自らの体格を生かしていかに圧力をかけていくか。そこに頭を切り替えることができていれば、アジア勢全滅という結果にはならなかったのかもしれない。しかし、あれだけのローをもらいながら立ち続けたチェ・ホンマンの強さは恐るべきものだ。強豪と対戦を重ね、さらなる経験を積んでいけば、ジェロムの言う通り彼を倒せる者は誰もいなくなるかもしれない。何よりも彼の最大の武器は若さなのだ。彼には時間がある。
大会のMVPは、文句なしでジェロム・レ・バンナ。韓国の大巨人だけでなく、温度の低い観客との勝負にも勝ってみせた。会場を一番熱狂させた、彼の前に出る気持ちの強さに敬意を表したい。
さて、この大会の二日後には決勝ラウンドの抽選が行われた。ジェロムは大会翌日にはフランスへ帰国(試合当日入国で、翌日出国!)の途に着いていたが、国際電話から彼が指名した相手はなんと昨年度のGP覇者であるセーム・シュルト。開幕戦でも磐石の強さを見せつけていたオランダの大巨人を相手にすることになったが、一番強い相手を倒したいというのが彼の意向だという。12月の決勝ラウンド、ホーストの引退や、今回躍進したゴールデングローリー勢、はたまたリザーバーは誰になるのか(武蔵、ホンマン、セフォー、バタハリなどが候補)などなど、注目ポイントはいくつもあるが、ジェロムの男気に注目してみるのもいいかもしれない。
総合格闘技向上委員会ver.21.0 最強を夢見た少年はいつしか ~060930_K-1@大阪~ |
marc_nas 2006.10.06 |
2006年9月30日、K-1 WORLD GP@大阪城ホール。毎年大阪ドームで開催されるGP開幕戦は、今年、少しグレードダウンし大阪城ホールでの開催となった。空席の目立つ場内でイマイチ盛り上がらない観客を、一気にヒートアップさせたのはメインの誰の目から見てもジェロム・レ・バンナ vs. チェ・ホンマンだった。私自身もかなり熱くなったのだが、その数試合前のレミー・ボンヤスキー vs. ゲーリー・グッドリッジ、普通の人はスルーしてしまうようなこの試合に、私は最も熱くなり、こみ上げる感情を抑えきれなかったのだ。
少年の頃、男の子なら誰しも一度は"最強"を夢見たはず。そして、大抵の場合、自分よりも圧倒的に強い人間に出逢い、そしてその最強への夢を挫折する。それでも諦めなかった者、また自身が圧倒的に強かった者のみがプロファイターとなる。グッドリッジもまた、夢を諦めず、圧倒的に強かった側の人間のはず。
UFCでトーナメント準優勝など、ある程度の活躍を見せ、PRIDE.1から参戦。その後、勝ち負けを繰り返すうち、いつの間にか初参戦の選手の力試し的な役割を担う「PRIDEの番人」と呼ばれるようになったグッドリッジ。小川直也の初参戦の相手を務めたり、ギルバート・アイブルにハイキックで衝撃的KOをされたり、ある時は猪木軍として担ぎ出されたり。最強を追い求めたはずの少年は、敗北を重ね、圧倒的な力の差を見せつけられるうち、いつしかプロモーターが求める自分の立ち位置を理解していったのだろう。しかし、そこにある種の悲壮感はなかった。
1999年のPRIDE.8。グッドリッジは第5試合でトム・エリクソンに敗れた。そしてその日のメインで、桜庭がホイラー・グレイシーに勝利し、観客やセコンド陣は初のグレイシーからの歴史的勝利に歓喜し、嗚咽した。そして、桜庭はリング中央で肩車されていた。肩車をしていた主はセコンドの誰でもなく、グッドリッジ。彼は数試合前に敗北したことを微塵も感じさせず、日本人ファイターのグレイシー狩りの喜びを分かち合ったのだ。本意はただの目立ちたがり屋で、サービス精神旺盛な人間だったのかも知れない。しかし、その光景に私は好感を得ずには、いられなかった。
そののち、敗れたエリクソンに教えを請い、セコンドに付いたり付かれたりの盟友となっていた。彼のセコンドには私が覚えている限り、マーク・コールマン、ジョシュ・バーネット、マイケル・マクドナルドと、幅広く輪を広げていった。二度の対戦をしたバンナもまた、ローキックでKO勝利したのち、歩けなくなった対戦相手の彼をおぶって控え室まで運んでいったのだった。(→ver.17.0 リング外で見た友情)こういった姿からも窺えるように、彼は誰からも愛されるキャラクターなのだろう。
そして彼は2003年の大晦日のドン・フライ戦を最後に、一度は選手を引退することとなる。その後のK-1で復帰することとなった際には、色々と揶揄されることもあったが、やはり私はファイターとして彼を応援し続けた。一度は消えかけた最強への夢がまた違うステージで再燃したのかと思いきや、K-1では更に観客が喜ぶKOするかされるかの、突貫ファイトを展開し、PRIDEの頃にも増してファイトスタイルは色濃く、愛されるものとなっていった。
前置きが長くなったが、今大会、彼は開幕戦にはエントリーされていなかったのだが、直前のピーター・アーツの病欠により代打出場することとなった。会見での記者の「なぜ毎回、直前のオファーを断らないのか?」の問いに「僕はどんな時でもオファーに応えられるよう準備している。衰えも感じないし、ゴウリキ・パワーを信じている。与えられた課題には、全てベストを尽くしてやり遂げたいと思っている。対戦相手が誰だろうが、会場がどこであろうが、オファーが来たら僕は迷わず"イエス"と答える。もちろん、技術うんぬんで言えば僕はベストファイターではないかもしれない。でも、自分のパフォーマンスでファンが喜んでくれると信じているし、自分自身のことも信じている。選手によっては敗北への恐怖心で、試合数が減ってリングから遠ざかったりする選手もいるが、僕はそういう考えではない。勝てる可能性が少しでもあればプロである以上、最後までKOを狙って行くべきだし、それで逆転されても、お客さんが喜んでくれるならそれでいい。(中略)ピーターには感謝してるし、一日も早く良くなって欲しい」と答えたのだ。
PRIDEからK-1へ鞍替えした際にも、今回のような急なオファーを毎回受ける度にも、"金のためだ"という人もいるが、私はグッドリッジの会見での言葉を信じたい。また、その格闘哲学は"最強への道・常勝街道"という点に於いては、正解ではないのかも知れない。十二分な準備があってこその、十分な結果なのだとも思うけれど、そんな選手が増える中、彼の現代格闘技へのアンチテーゼのような哲学には、激しく共感出来るし、男らしささえ感じる。
しかし、いややはりと言うべきか、リングに上がった彼の腹はたるんでおり、準備不足の感は否めず、レミーの妙技オンパレードが如く、左右のハイキック、華麗な飛び膝を喰らうこととなる。1Rに見事な右飛び膝でダウンを喫するも、完全に目の焦点があっていない状態で立ち上がり、観ているこちら側が辛くなるような状態でも闘い続けた。なんとか耐えて迎えた2Rも、レミーの華麗な蹴り技は続き、意識朦朧としている中、レミーの脚を抱え、パンチを繰り出す。そして、最終Rも右膝→パンチのラッシュ→右ハイキックで左目周辺をカットし、おびただしい量の出血をし、マットに沈められることとなった。
試合後のインタビューで、途中から意識がない状態でのファイトで、記憶がないことを明かした。そして、記者が「急なオファーのためコンディション面で大変だったのでは?」との問いに対して「1年中、コンディションを整えるよう努めている。だから問題はなかったが、よりコンディションを高めるという意味では厳しかった」とやっと漏らした。だが、それは決して言い訳には聞こえず、あくまで勝利を狙い、戦略を立てて闘ったことを強調した。
現代格闘技界に於いて、時代錯誤ともとれる彼の格闘哲学とファイトスタイル。だけど、常勝主義のこのご時世に、こんな天然記念物のような男がいてもいいじゃない。間違った男らしさかも知れないけど、素直にめちゃくちゃかっこいいと思うのです。私はそんなグッドリッジが大好きでならないのです。ただ、頭部への攻撃に相当弱くなっていることから、かなりダメージが蓄積しているのが窺えるのが心配でなりません。あと何年続くか分からない現役生活だけれども、無理はせず・・・と言っても、無理をしてしまうのが、彼なんだろうなぁ、またそんなところがまた私の心をくするぐるのだろうなぁ。そんな彼に幸あれ、グッドラック、グッドリッジ。